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絆を信じて支え合う。
2011年3月11日、想像を超える大地震と津波が
三陸海岸をおそった。
政治家、官僚はもちろんの事、国民の多くが、「津波を止める強固な防波堤」という手前味噌な安全神話を信じたばかりに、2万人を超える多くの尊い人命と、多くの資産を、一瞬のうちに失ってしまった。
また、福島県では地震・津波という千年に一度という自然災害の上に、人災としか思われない、福島第一発電所の原発事故が発生した。チェルノブイリに匹敵する取り返しのつかない大惨事であったことも、最近、やっと明らかになった。
それぞれ、被害を受けられたすべての皆さんに、心からの哀悼の意を表したいと思う。
だが、東日本を襲った大惨事の中でも、人間万事塞翁が馬と言うか、この未曾有の災害によって得られた大きな光明もある。震災を受けた人たちの自立と連帯。日本全国から集まった多くの若いボランテイアの献身的な働き。世界中、ありとあらゆる国と人々から寄せられた暖かい支援。戦後の経済発展とともに完全に見失っていた、世界の人たちの暖かさ、日本人の美徳、人の絆の大切さを、今回ほど強く感じたことはない。
近年、小泉政権以来、我国では、膨れ上がった行政コストを削減するために、多くの施策がとられてきた。特に、行政改革という名の下で、規制を緩和し、超高層ビルを建て、周辺地域から東京都心へと、一極集中を図ってきた。ゼネコンが喜ぶこの政策で、我々の業界も、ずいぶん恩恵を受けてきた事は確かだし、行政コスト削減という観点からは優れた政策であったかもしれない。
だが、災害を経験した今、都市の安全という観点では、危険極まりない愚かな施策であった事が露呈した。また、原子力の平和利用、原料コストが一番安いという触れ込みで、この地震大国に54基もの原発が建設されてきた。原子力発電の安全性については、イデオロギーの論争がその足かせとなって、健全な安全論議が封印され、経産省と電力会社とメデイアとが共犯で、絶対神話をつくりあげてきた。
今でもなお、原発報道には規制がかかる。今回の福島の原発事故が、二重の人災かもしれないと言われている根拠はここにある。そして、何より不幸なことは、まだ完全に収束しているわけではない。そんなジレンマを抱えながら、復興に向かって歩き始めなければならない現実がある。
そんな中、日本の未来に対して、中国のようにGNPが年率10%を超える大発展を、望んでいる国民はそんなにはいない。この国が向かっている方向性は、この災害とともに180度転換したようにさえ思える。
多くの人々は東日本震災の復興とともに、危機管理にすぐれた、安心・安全な国をつくってほしいという願いが一番強い。東京一極集中を緩和して、地方分権によって、均衡ある地方都市の発展をという政策が求められている。
また、人間の知恵では処理できないゴミを、出し続けざるを得ない原子力発電より、国産で間に合う、環境にやさしい再生可能な、自然エネルギーへシフトすべきだと思っている人も多い。しばらくの間、少々の不便は国民全員で我慢すれば、できないことはないだろう。
どちらにしても、自立した国民が、分散型で循環型の社会を目指すというのが、自然との共生を得意とした民族である、我々日本人のベストな選択だと思う。
大日化成株式会社 代表取締役会長 小林知義
所属・団体
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